シンガポールの経済情勢

シンガポールの経済情勢

「来年末にはジャカルタを走る二輪車・乗用車の道路占有面積が、道路の総面積を超え、交通が完全に麻痺する『グリッド・ロック』状態となる」とインドネシアの首都ジャカルタ州政府の専門家が発表しています。グリッド・ロック状態というのは、前後左右どこにも動けない状態で、渋滞というよりも「駐車の列」って感じでしょうか。日本も年の瀬が迫り、年末年始の高速道路の渋滞予想なんていうのが話題に上る時期になってきましたが、そんなものは新興国大都市圏の日常の渋滞に較べたら可愛いものかもしれません。東南アジアでの渋滞と言えば、タイのバンコクや、インドネシアのジャカルタの渋滞が特に有名ですが、ジャカルタを例にとりますと、二輪車(バイク)が毎日891台、乗用車が236台増え続けていて街中の平均スピードが毎年、時速1キロずつ遅くなっているとのことです。(現在は時速10~15キロ位らしいです。)

 

インドネシア経済はこの8年間、年率4~6%の成長を維持していますが、首都圏の交通渋滞は悪化の一途をたどっています。ジャカルタの幹線道路は片側4,5車線あり立派ですが、他の一般道路は車線がはっきりせず貧弱で脇道も少ないときています。人口1000万人の東南アジア最大の都市にも拘らず、地下鉄などの大量輸送鉄道が無く、公共交通はオンボロバスに頼っています。中央の専用車線を新型バスで走る「トランス・ジャカルタ」はバスが足りず、長く待たされるうえ殆ど座れないなどと乗客からは甚だ不評です。モノレールは10年ほど前に建設が始まったものの支柱が建っただけで工事は止まってしまっています。水上バスも川底のゴミがスクリューにからまり、わずか数ヶ月で運休に追い込まれました。地下鉄は昔から日本のODAなどで建設する計画はあるものの何度も頓挫し工事が始まらず「グリッド・ロック」状態を招く大きな原因になっています。

 

経済成長著しい新興国の人口集積地において、公共交通機関が発達していない場合に起きる「悲劇」(喜劇?)を地で行くのがまさに今のジャカルタでしょうか。公共の「足」が無いのだから、自分で「足」を確保する為にも車両の保有が増える、というのはしょうがないこと(?)ではあるのでしょうが、世界の中には車両の保有そのものを政府・自治体が制限(割り当て)している国・地域は結構あります。その一つが当地、シンガポールです。

 

シンガポールは、淡路島(あるいは東京23区)と同程度、というその小さな国土面積の為、自ずと物理的に許容可能な車両数に限界があります。従って、1965年の独立後、かなり早い段階から、いかにして車の台数自体を経済成長との兼ね合いの中でコントロールするかに苦心してきました。現在シンガポールにて車両を購入する為には、まずは「車両を購入する為の権利」を手に入れる必要があります。1990年から導入された制度でCOE (Certificate Of Entitlement)と呼ばれているものです。

 

今、シンガポールで自動車を購入するには信じられないくらいの出費を覚悟する必要があります。例えば本日現在のトヨタ車販社のボルネオ・モーターズが扱うヨタカローラアルティス(1,600cc)の価格は9万7,488Sドル(約630万円)、カムリ(2,000cc)は13万8,488Sドル(約900万円)となっています。ね、驚きますでしょ?で、こういった値段になる秘密の一部にこのCOE制度があります。しかしまあ、車っていうものは、そもそも各個人が個々に保有すべきものなのでしょうかねえ?

 

現在世界中にはざっくりと10億台ほどの車両があるそうで、米国(人口3.2億人)の車両数が約2億5千万台、日本(人口1.3億人弱)の車両数が約8千万台弱で、この2カ国で全世界の3割を占めていますが、中国、インド、インドネシア、ブラジル(この4カ国だけで総人口は30億人!)といった新興大国の経済成長に伴い世界の中間層人口は爆発的に増えるのでしょうから、ほっておきますと、世界の車両数はとんでもなく増えていってしまいそうです。石油価格高騰と共に、ガソリン車からハイブリッド、あるいは電気自動車への流れが加速され、「エコ」とかいう意味不明のキャッチコピーで宣伝されている自動車業界のようですが、冷静に考えてみますと、増加する車両の存在自体が思いっきり「エコ」ではなさそうです。